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■ヘイトスピーチ概念の個人的な整理【全面改稿済み】

【2016/4/13全面改稿】
 とりあえず、ヘイトスピーチ概念が人権侵害の中にどう位置づけられるか、下の図にして整理した。
ヘイトスピーチ概念模式図
 では、具体的なヘイトスピーチの定義はなんなのか。この点、Journalism(朝日新聞出版)2013年11月号に収録された小谷順子氏の論文「アメリカとカナダの違いに学ぶヘイトスピーチ規制の法律と判例」に引用されている「憎悪の特徴」が参考になる。カナダ人権法の下でヘイトスピーチと認定するのに使われてきた項目である。以下にそのまま引用する。

(a)ターゲット集団が社会の主要な組織を支配して他者の生存や安全等を奪う強力な敵として描かれている。
(b)信頼性の高そうな実話やニュース報道映像等を用いることでターゲット集団をネガティブに一般化している。
(c)ターゲット集団が子ども、年配者、又は弱者等につけこむものとして描かれている。
(d)ターゲット集団が今日の社会と世界の抱える問題の原因として描かれている。
(e)。
(f)ターゲット集団の構成員が無価値で生来的に邪悪であるとする思想を伝える表現である。
(g)ターゲット集団による害悪から他者を救うためには当該集団の追放、隔離、又は絶滅が唯一の方法であることを伝える表現である。
(h)ターゲット集団を動物、害虫、又は排泄物と比較することで非人闇化している。
(i)極端に強い憎悪と侮辱を生み出すために非常に煽動的で侮辱的な表現が用いられている。
(j)ターゲット集団の構成員が過去に経験した迫害や悲劇を過小化したり祝福したりする。
(k)ターゲット集団に対する暴力を唱道する。

 在特会のヘイトデモの風景とこの特徴を照らし合わせ、まさにこんなことをやっていたなどと思われた方も多いであろう。このような特徴がいくつか見られることがヘイトスピーチの認定のためには必要とされているとのことである。私も、この特徴は非常によくヘイトスピーチの特徴を表していると考える。これらの特徴は、特定の属性を対象にした単なる誹謗中傷という域を超え、ジェノサイドへのベクトルを持つ(ジェノサイドについては(注)を参照)ものである。だからこそ、単なる人権侵害一般に対する規制よりも手厚い規制が必要になるのだ。
 具体的な事例をひとつ。小倉秀夫弁護士「「福島産は毒だ」など反原発が流してるデマ」はヘイトスピーチの定義から外れます。」 - Togetterまとめのコメント欄では「「おまえら朝鮮人の作ったものは毒だ」とコリアンタウンで言う」のがヘイトスピーチかどうかと問題提起をされているが、この例だと、「ターゲット集団が本質的に危険又は暴力的な存在として描かれている」「ターゲット集団の構成員が無価値で生来的に邪悪であるとする思想を伝える表現」であるかが問題になる。なので、(まずやらないだろうが)とりわけ食品の安全に厳しい生活クラブ生協の人たちが「韓国産食品は危険だ」とコリアンタウンで訴えてもおそらくはヘイトスピーチにはならない。特段に厳しい生活クラブの食品安全基準を満たさないものはすべて危険だとする思想を伝えているだけであるから。逆に、在特会の人間が同じことを言ったら、おそらくヘイトスピーチになる。朝鮮民族の人々が本質的に危険で邪悪であることを伝える一つの材料として韓国産食品の安全性を訴えているからだ。同じ判断基準で、「福島産食品は毒だ」とする表現がヘイトスピーチに該当するかも判断できる。そのような表現が、福島県の農家が本質的に危険だとする表現かと言ったら当てはまらないのではないか。どの属性の集団にもある課題のひとつとしての表現である限り、ヘイトスピーチには該当しない。確かに福島産食品は毒だとする表現は由々しきデマではあるのだが。ジェノサイドにもつながりかねない特に悪質な憎悪の扇動をヘイトスピーチとする立場からは福島産食品を毒だとするデマはヘイトスピーチには該当しないことになる。

 そして、近代の歴史上ジェノサイドに至るほどの憎悪を持ちえたのは、今のところ人種・民族・宗教に基づく差別だけである。小規模なものはあったのかもしれないが。であるからこそ、国際人権基準(人種差別撤廃条約と自由権規約)が人種・民族・宗教に基づく憎悪の扇動に限って法律で禁止しろと要求しているのである。もちろんこれらの限定は歴史上の経験に基づくものに過ぎないから、他の属性に対する憎悪扇動がジェノサイドに結びつきかねないものにまで至っている(具体的には「憎悪の特徴」に該当するもの)というのなら、それらもヘイトスピーチとして規制することは当然であるが、そうでないのなら、2002年人権擁護法案が社会の多層の「言論の自由を害する」との反対によって成立しなかったことを考えると、規制の対象にすることはできないと言えよう。ryoFC氏はこんな因縁をつけているが 福島差別がジェノサイドに結びつくベクトルを持っている(具体的には憎悪の特徴に該当する)ことを示すのが第一ではないか。人権擁護法案のように幅広くマイノリティの人権を救済する法案は「表現の自由」から成立しないのはわかりきったことで、ジェノサイドに結びつく特段に悪質な憎悪扇動に限って何とか法案を通そうとしているのがヘイトスピーチ規制賛成派の実情だからだ。
 過去、私はヘイトスピーチ概念の定義についてこれに反する見解を示していたことがあったが、それらはすべて撤回し、この記事にまとめたようなものを私の見解とする。

(注)ジェノサイドの定義について
 日本も加入している国際刑事裁判所ローマ規程は、ジェノサイドを次のように定義している。「集団殺害犯罪」は、日本の外務省がジェノサイドの訳語として採用したものだ。

 この規程の適用上、「集団殺害犯罪」とは、国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う次のいずれかの行為をいう。
 (a)当該集団の構成員を殺害すること。
 (b)当該集団の構成員の身体又は精神に重大な害を与えること。
 (c)当該集団の全部又は一部に対し、身体的破壊をもたらすことを意図した生活条件を故意に課すこと。
 (d)当該集団内部の出生を妨げることを意図する措置をとること。
 (e)当該集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。

 「国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団」と限定がなされているが、これも、とりもなおさずそのような属性をもつ集団がジェノサイドの標的にされた歴史に基づくものである。もし今後これらの属性ではない属性を対象にジェノサイドがなされる兆候があれば、ジェノサイドの定義を拡充することはありうるだろう。
【2016/4/13全面改稿前の記事】
 とりあえず、ヘイトスピーチ概念が人権侵害の中にどう位置づけられるか、下の図にして整理した。
ヘイトスピーチ概念模式図

 「男性差別」はおまけである。男性差別と言われているものの中には、いわば女性への「合理的配慮」とも呼ぶべきものが混じっているのでこの図のような位置にした。ヘイトスピーチ概念は、とりわけナチスの経験から持ち上がった議論であり、国際人権基準(自由権規約・人種差別撤廃条約)が「扇動を禁止しろ」としているのもまさに人種・民族・宗教を理由にした憎悪の扇動なのである。別にヘイトスピーチと呼ばれなくても、福島差別が人権問題であることには変わらないのだが、なぜか福島差別もヘイトスピーチだろと執拗に迫ってくる者がいるのには閉口する。なぜそこまで執拗にこだわるのだか。いじめはいじめと、虐待は虐待と、同和問題は同和問題と、ヘイトスピーチはヘイトスピーチと呼びましょうと言っているだけである。「ヘイトスピーチ規制しろと言うのなら福島差別もヘイトスピーチの中に入るよな、だから福島差別も規制対象に入れろ」と言いたかったのだろうが、前回の記事で述べたように人権擁護法案が「言論弾圧」などとして潰された現状では無理な相談だ。ついでに。
 こんなことを言っている者がいたが、だったら自分で実際に部落解放同盟に聞いて来い。
 「ヘイトスピーチ」の定義に入らないからと言って、規制の対象にしなくていいと言っているわけでもなければ、人権侵害ではないといっているわけではないというのが結論である。
 ここまでは「誰を対象に」の話であったが、その対象に「何」をしたらヘイトスピーチと呼ぶのか、簡単に触れておく。この点、Journalism(朝日新聞出版)2013年11月号に収録された小谷順子氏の論文「アメリカとカナダの違いに学ぶヘイトスピーチ規制の法律と判例」に引用されている「憎悪の特徴」が参考になる。カナダ人権法の下でヘイトスピーチと認定するのに使われてきた項目である。以下にそのまま引用する。

(a)ターゲット集団が社会の主要な組織を支配して他者の生存や安全等を奪う強力な敵として描かれている。
(b)信頼性の高そうな実話やニュース報道映像等を用いることでターゲット集団をネガティブに一般化している。
(c)ターゲット集団が子ども、年配者、又は弱者等につけこむものとして描かれている。
(d)ターゲット集団が今日の社会と世界の抱える問題の原因として描かれている。
(e)ターゲット集団が本質的に危険又は暴力的な存在として描かれている。
(f)ターゲット集団の構成員が無価値で生来的に邪悪であるとする思想を伝える表現である。
(g)ターゲット集団による害悪から他者を救うためには当該集団の追放、隔離、又は絶滅が唯一の方法であることを伝える表現である。
(h)ターゲット集団を動物、害虫、又は排泄物と比較することで非人闇化している。
(i)極端に強い憎悪と侮辱を生み出すために非常に煽動的で侮辱的な表現が用いられている。
(j)ターゲット集団の構成員が過去に経験した迫害や悲劇を過小化したり祝福したりする。
(k)ターゲット集団に対する暴力を唱道する。

 在特会のヘイトデモの風景とこの特徴を照らし合わせ、まさにこんなことをやっていたなどと思われた方も多いであろう。このような特徴がいくつか見られることがヘイトスピーチの認定のためには必要とされているとのことである。私も、この特徴は非常によくヘイトスピーチの特徴を表していると考える。この基準をそのまま使ってもいいのではないか。
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