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■今だから確認しておきたい国際人道法の条文【追記あり】

 ダーイシュ(ISIL、いわゆる自称「イスラム国」)に拘束された日本人1名が殺害されたとの報に接し、とても衝撃を受けた。そんな今だからこそ、武力紛争の際に適用される法というものがあるのであって、今回の事例にもきちんと適用される法の条文があることを示す。そしてその法によればダーイシュの行為は訴追されなければならないことも示す。

1.まずはお約束、共通3条
 武力紛争(「戦争」は国連憲章で違法とされていて、この語を使うと「戦争」ではないから適用しないもんねーとなるので武力紛争という語を使っている)の際に適用される国際法というのがある。敵への攻撃行為を規制し、紛争犠牲者を保護し、よって武力紛争に巻き込まれたすべての人の最低限の尊厳を保護しようとするものである。これらの法を「国際人道法」といい、主だったものは1949年8月12日にジュネーブで締結された四つの条約(1949年のジュネーブ諸条約、さらに略してジュネーブ諸条約とも言う)とそれらに追加された1977年の追加議定書(ジュネーブ諸条約の追加議定書と称する)がある(他にもハーグ陸戦規則などが存するがほぼジュネーブ諸条約と追加議定書がカバーするに至った)。
 1949年8月12日の条約群は「戦地にある軍隊の傷者及び病者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約」(第一条約)、「海上にある軍隊の傷者、病者及び難船者の状態の改善に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約」(第二条約)、「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約」(第三条約)、「戦時における文民の保護に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約」(第四条約)からなっていて、それぞれ陸上で負傷したり病気になった兵士、会場で病気になったり負傷したり遭難した兵士、捕虜、民間人を保護する規定がある。そしてこれらの条約に追加されたのが1977年の追加議定書で、「1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書1)」と「1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書2)」がある。こちらはさらに広い範囲の規定を置いていて、攻撃に使う手段の制限などの規定もある。
 さて、1949年のジュネーブ諸条約の四つの条約はほぼ共通した条文を第三条に置いている。以下引用。

 締約国の一の領域内に生ずる国際的性質を有しない武力紛争の場合には、各紛争当事者は、少くとも次の規定を適用しなければならない。
(1)  敵対行為に直接に参加しない者(武器を放棄した軍隊の構成員及び病気、負傷、抑留その他の事由により戦闘外に置かれた者を含む。)は、すべての場合において、人種、色、宗教若しくは信条、性別、門地若しくは貧富又はその他類似の基準による不利な差別をしないで人道的に待遇しなければならない。  このため、次の行為は、前記の者については、いかなる場合にも、また、いかなる場所でも禁止する。
(a)  生命及び身体に対する暴行、特に、あらゆる種類の殺人、傷害、虐待及び拷問
(b)  人質
(c)  個人の尊厳に対する侵害、特に、侮辱的で体面を汚す待遇
(d)  正規に構成された裁判所で文明国民が不可欠と認めるすべての裁判上の保障を与えるものの裁判によらない判決の言渡及び刑の執行
(2)  傷者及び病者(第二条約…傷者、病者及び難船者。)は、収容して看護しなければならない。
 赤十字国際委員会のような公平な人道的機関は、その役務を紛争当事者に提供することができる。
 紛争当事者は、また、特別の協定によって、この条約の他の規定の全部又は一部を実施することに努めなければならない。
 前記の規定の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない。

 敵対行為に参加しない者に対する人質や殺人といった行為はこの規定で一切禁止されている。民間人や怪我などして武器を執ることが出来なくなった兵士への攻撃などは一切禁止だ。そして、この3条で保護される人に対して「殺人、拷問若しくは非人道的待遇(生物学的実験を含む。)、身体若しくは健康に対して故意に重い苦痛を与え、若しくは重大な傷害を加えること又は軍事上の必要によって正当化されない不法且つし意的な財産の広はんな破壊若しくは徴発を行うこと」は重大な違反行為になる。この重大な違反行為、ジュネーブ諸条約加盟各国が訴追しなければならないといういわば国際社会が認めた犯罪だ。そしてダーイシュは現に武器を執っていない日本人人質1名を殺害したと報じられた。もし殺害が事実であればこの重大な違反行為に該当することは明白なので断固として訴追されなければならない。
 なお、「前記の規定の適用は、紛争当事者の法的地位に影響を及ぼすものではない」というのはこれらの規定を適用したからと敵対する紛争当事者が正当に攻撃する権利を持っていると認めることではない、紛争に訴える権利を持っているものではないとする規定である。とりあえず紛争に巻き込まれた人を保護する必要があるわけで、彼らを保護するための規定を適用するに当たっては紛争に訴えた当事者が正当に紛争を起こしたかどうかはとりあえず置いておきましょうという規定である。

2.追加議定書はさらに細かい規定を置いている
 今回の事態に該当すると見られる第二追加議定書、すなわち1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の非国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書2)はさらに詳細な規定を置いている。第四条を引用する。

1 敵対行為に直接参加せず又は敵対行為に参加しなくなったすべての者は、その自由が制限されているか否かにかかわらず、身体、名誉並びに信条及び宗教上の実践を尊重される権利を有する。これらの者は、すべての場合において、不利な差別を受けることなく、人道的に取り扱われる。生存者を残さないよう命令することは、禁止する。
2 1の原則の適用を妨げることなく、1に規定する者に対する次の行為は、いかなる場合においても、また、いかなる場所においても禁止する。
(a) 人の生命、健康又は心身の健全性に対する暴力、特に、殺人及び虐待(拷問、身体の切断、あらゆる形態の身体刑等)
(b) 集団に科する刑罰
(c) 人質をとる行為
(d) テロリズムの行為
(e) 個人の尊厳に対する侵害、特に、侮辱的で体面を汚す待遇、強姦、強制売春及びあらゆる形態のわいせつ行為
(f) あらゆる形態の奴隷制度及び奴隷取引
(g) 略奪
(h) (a)から(g)までに規定する行為を行うとの脅迫
3 児童は、その必要とする保護及び援助を与えられる。特に、
(a) 児童は、その父母の希望又は父母がいない場合には児童の保護について責任を有する者の希望に沿って、教育(宗教的及び道徳的教育を含む。)を受ける。
(b) 一時的に離散した家族の再会を容易にするために、すべての適当な措置がとられなければならない。
(c )十五歳未満の児童については、軍隊又は武装した集団に採用してはならず、また、敵対行為に参加することを許してはならない。
(d) 十五歳未満の児童は、(c)の規定にかかわらず敵対行為に直接参加し、捕らえられた場合には、この条の規定によって与えられる特別の保護を引き続き受ける。
(e) 児童については、必要な場合には、その父母又は法律若しくは慣習によりその保護について主要な責任を有する者の同意を可能な限り得て、敵対行為が行われている地域から国内の一層安全な地域へ一時的に移動させる措置並びにその安全及び福祉について責任を有する者の同行を確保するための措置がとられなければならない。

 非常に細かい規定が置かれていることがわかる。しかしこれでも国際的な武力紛争の際に適用されるジュネーブ諸条約や第一追加議定書よりは簡略になっているのだが。そして、人質をとる行為や殺害行為、またそれらをするとの脅迫はこの規定に違反するものである。

3.国際的な武力紛争ではさらにこんな規定も
 ダーイシュは自らを国家と称しており、武力攻撃もあくまでも戦闘行為だ、テロリズムではない、国と国との戦闘なのだと考えている節があるが、もし国際的な武力紛争とするとこんな規定もある(1949年8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第一追加議定書))。

 第六十一条 定義及び適用範囲
この議定書の適用上、
(a) 「文民保護」とは、文民たる住民を敵対行為又は災害の危険から保護し、文民たる住民が敵対行為又は災害の直接的な影響から回復することを援助し、及び文民たる住民の生存のために必要な条件を整えるため次の人道的任務の一部又は全部を遂行することをいう。
(i) 警報の発令
(ii) 避難の実施
(iii) 避難所の管理
(iv) 灯火管制に係る措置の実施
(v) 救助
(vi) 応急医療その他の医療及び宗教上の援助
(vii) 消火
(viii) 危険地域の探知及び表示
(ix) 汚染の除去及びこれに類する防護措置の実施
(x) 緊急時の収容施設及び需品の提供
(xi) 被災地域における秩序の回復及び維持のための緊急援助
(xii) 不可欠な公益事業に係る施設の緊急の修復
(xiii) 死者の応急処理
(xiv) 生存のために重要な物の維持のための援助
(xv) (i)から(xiv) までに掲げる任務のいずれかを遂行するために必要な補完的な活動(計画立案及び準備を含む。)
(b) 「文民保護組織」とは、(a)に規定する任務を遂行するために紛争当事者の権限のある当局によって組織され又は認められる団体その他の組織であって、専らこれらの任務に充てられ、従事するものをいう。
(c) 文民保護組織の「要員」とは、紛争当事者により専ら(a)に規定する任務を遂行することに充てられる者(当該紛争当事者の権限のある当局により専ら当該文民保護組織を運営することに充てられる者を含む。)をいう。
(d) 文民保護組織の「物品」とは、当該文民保護組織が(a)に規定する任務を遂行するために使用する機材、需品及び輸送手段をいう。
 第六十四条 軍の文民保護組織以外の文民保護組織であって中立国その他の紛争当事者でない国のもの及び国際的な調整を行う団体
1 前二条、次条及び第六十六条の規定は、紛争当事者の領域において、当該紛争当事者の同意を得て、かつ、その監督の下に第六十一条に規定する文民保護の任務を遂行する軍の文民保護組織以外の文民保護組織であって中立国その他の紛争当事者でない国のものの要員及び物品についても適用する。軍の文民保護組織以外の文民保護組織であって中立国その他の紛争当事者でない国のものによる援助については、敵対する紛争当事者に対しできる限り速やかに通報する。この活動については、いかなる場合においても、紛争への介入とみなしてはならない。もっとも、この活動については、関係紛争当事者の安全保障上の利益に妥当な考慮を払って行うべきである。
2 1に規定する援助を受ける紛争当事者及び当該援助を与える締約国は、適当な場合には、文民保護の活動の国際的な調整を容易なものとすべきである。その場合には、関連する国際的な団体は、この章の規定の適用を受ける。
3 占領国は、占領地域において、自国の資源又は当該占領地域の資源により文民保護の任務の適切な遂行を確保することができる場合にのみ、軍の文民保護組織以外の文民保護組織であって中立国その他の紛争当事者でない国のもの及び国際的な調整を行う団体の活動を排除し又は制限することができる。

 長々と引用したが、警報の発令や避難所などの運営、救助や食料の提供などといった行為は「文民保護」として人道的な任務とされている。そしてここには引用しなかったが第一追加議定書の第62条はこれらの活動を行う人や組織、資材などは「尊重し、保護される」としていて、攻撃してはならないことになっている。そして64条は中立国がこれらの活動に要員や物品、組織を出して援助することは「いかなる場合においても、紛争への介入とみなしてはならない」。これらの活動に援助しても紛争に加担して敵対したとはみなしてはいけないのだ。
 さらに、第一追加議定書にはこんな規定もある。

 第七十条 救済活動
1 占領地域以外の地域であって紛争当事者の支配の下にあるものの文民たる住民が前条に規定する物資を適切に供給されない場合には、性質上人道的かつ公平な救済活動であって不利な差別をすることなく行われるものが実施されるものとする。ただし、そのような救済活動については、関係締約国の同意を条件とする。そのような救済の申出は、武力紛争への介入又は非友好的な行為と認められない。救済品の分配に当たっては、第四条約又はこの議定書により有利な待遇又は特別の保護を受けることとされている児童、妊産婦等を優先させる。
2 紛争当事者及び締約国は、この部の規定に従って提供されるすべての救済品、救済設備及び救済要員の迅速な、かつ、妨げられることのない通過について、これらによる援助が敵対する紛争当事者の文民たる住民のために提供される場合においても、許可し及び容易にする。
3 2の規定に従い救済品、救済設備及び救済要員の通過を許可する紛争当事者及び締約国は、次の権利及び義務を有する。
(a) 通過を許可するための技術的条件(検査を含む。)を定める権利
(b) 援助の分配が利益保護国による現地での監督の下に行われることを許可の条件とすることができること。
(c) 関係する文民たる住民の利益のために緊急の必要がある場合を除くほか、いかなる形においても、救済品の指定された用途を変更してはならず、また、その送付を遅延させてはならないこと。
4 紛争当事者は、救済品を保護し、及びその迅速な分配を容易にする。
5 紛争当事者及び関係締約国は、1の救済活動の効果的で国際的な調整を奨励し及び容易にする。

 紛争当事国での救済活動を中立国が行うのもやはり紛争に介入したとか非友好的な行為とは認めないと定めている。
 まとめると、紛争下の民間人を保護する一定の範囲の人道的な支援は紛争への介入でもなく、敵対行為でもない。しかしダーイシュはもちろん日本の人道支援を敵対行為とみなしているし、何よりも安倍晋三首相自体が「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ダーイシュがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ダーイシュと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。」とダーイシュとの戦いに参加するとスピーチしてしまっているわけで、今更単なる人道支援であると言ってもどうしようもない。本気で人道支援のみと主張したいのだったら最初から第一追加議定書を意識してスピーチを組み立てるべきであった。

4.ダーイシュは訴追されなければならない
 これらの規定に違反して人質をとるばかりか人質を殺害した実行者とそれを指揮した者は断固として訴追されなければならない。彼らは確かに国際人道法に違反する犯罪者であるが、だからと言って際限ない攻撃をしていいわけではない。これは先に見てきたジュネーブ諸条約と追加議定書の規定が定めることである。もちろん相手が武器を執り続けているうちは攻撃を続けて構わないのだが、ひとたび武器を執ることを取りやめたのならこれを逮捕し、文明的な裁判所で訴追しなければならない。また、国際刑事裁判所も管轄権を有するので国際刑事裁判所で訴追することも検討してよい。

5.ダーイシュは自らを国家と主張するなら最低限国際人道法を遵守せよ
 最後。ダーイシュは自らを国家とし、正当な戦争であると言いたいように見えるが、もし自らを国家と主張するなら最低限ジュネーブ諸条約をはじめとする国際人道法は遵守しなければならない。国際人道法を遵守することによって国際社会に対し自らの正当性を主張する材料になりうることを自覚すべきである。

6.国際人道法の守護者、赤十字にどうぞ御支援されたし
 これらの国際人道法を守護し、法典化を推進してきたのは赤十字国際委員会と赤十字運動である。日本では赤十字運動の一組織として日本赤十字社がある。もちろんシリア・イラクの人道危機に対しても寄付を募っている…が、これまでに42,605,087円しか集まってない。あんまりにもあんまりではないか。現地の難民の苦境がダーイシュに参加する人間を増やしているという。当たり前だが食えなきゃ武装テロでも何でも参加する。またダーイシュに追われた人々も難民となっている。このよう難民を支援していくことこそが人道を無視するダーイシュへの最大の対抗ではなかろうか。というわけであくまで人道の立場に立ち活動する赤十字に皆様の御支援をいただきたく。
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ブログ名変えた(2011.4.24)。落ち着かないなあ。

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