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■武雄市の改正図書館・歴史資料館設置条例は違法か?

 武雄市議会が図書館・歴史資料館設置条例改正案(本件条例)を可決したが、この条例が地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)に違反するかどうかをこれから検討していく。私の結論は「本件条例は文化財の保護を市長に委ねたものと解することはできず、地教行法に違反するものではない。武雄市長が文化財の保護管理も行わせれば条例に基づかないものであるばかりならず地教行法に違反するものである」というものだ。昨日来twitter上で議論してきたがきわめて深刻な食い違いが存在すると考えるので丁寧に説明する。

1.本件条例は文化財保護を市長に委ねたものではなく、地教行法に違反するものではない
(1)上位法に規定されていることは下位法では規定しない
 本件条例に触れる前にまずはお勉強。日本の法令のお約束として、上位法で規定されていることは下位法で再び規定することはしないというお約束がある。例を示そう。国会法は国会両議院の定足数について何の定めも置いていない。これは国会法の上位法たる日本国憲法が国会の定足数について次のように定めているからだ。

第五十六条  両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
 両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

 憲法にこのように定めが置かれているから国会法は定足数について何らの定めも置いていないのである。このように、下位法に一見規定がないように見えてもそれは上位法の規定がそのまま適用されるためわざわざ下位法で規定することはしていないのである。この設例で言えば国会法が定足数を撤廃したわけではなく、あくまでも憲法の定足数の規定がそのまま適用されるので国会法では定めを置いていないというだけである。上位法に規定があり、そして下位法に何の規定もないときは上位法の規定をそのまま適用するので書いていないというだけの話だ。

(2)従って本件条例は文化財保護に関する事項を市長に委ねたものと解することはできない
 さて、以上のことを踏まえて本件条例の検討である。本件条例は武雄市立図書館・歴史資料館の設置管理を市長が指定した管理者に行わせることができるようにしたものである。具体的には次の条文が加えられた。

 (指定管理者による管理)
第14条 図書館・歴史資料館の管理は、法人その他の団体であって市長が指定するもの(以下指定管理者と言う)にこれを行わせることができる。

 (業務の範囲)
第15条 指定管理者に行わせる業務の範囲は、次に掲げるとおりとする。
(1) 図書館・歴史資料館の利用に関すること。ただし、歴史資料に関するものを除く。
(2) 図書館・歴史資料館の維持管理に関すること。
(3) 前2号に掲げるものの他、図書館・歴史資料館の管理運営に関して市長が必要と認める業務

 (準用)
第16条 第7条の規定は、第14条の規定により指定管理者に図書館・歴史資料館の管理を行わせる場合について準用する。

 問題とされたのは市長が指定管理者を指定することができ、かつ必要と認める業務を決定する権限が市長に与えられたという点である。市長が指定することとする前提として図書館・歴史資料館の管理を市長に移管することとなる。地教行法はその24条の2で文化に関する事項を条例で教育委員会から市長に移管することができると定めているが(これで文化施設の教育委員会から市長への移管は可能となる)文化財に関する事項は除くとしている。そして歴史資料館には文化財が収蔵されていて、その管理まで市長が指定管理者に行わせることになるので地教行法24条の2に違反しており、指定管理者の指定を教育委員会に行わせるか(これで図書館・歴史資料館の所管は教育委員会に残されたままとなる)あるいは第15条第3号に歴史資料に関するものを除くと規定するかのいずれかの措置を取らないと違法状態を解消できないというのである。
 しかし先に述べたとおり上位法に規定されている事項は下位法では規定しない。条例が何も書いていないのは上位法たる地教行法の規定がそのまま適用されるからだ。だから条例でわざわざ規定するまでもなく文化財に関する事項の権限は引き続き教育委員会に当然残り、市長が指定管理者に行わせることはできないということとなる。これが日本の法令のお約束から導き出される解釈だ。この解釈を否定するというのなら法律を超えて「必要な事項」を指定管理者に行わせることができるという解釈となり、従って小説の「図書館戦争」に出てくるような「図書防衛権」まで認めてしまったという解釈になる。そんな解釈は荒唐無稽でしかない。

よくある質問
問 教育委員会が指定管理者を指定すれば文化財に関する事項も指定管理の中に入れられるのに市長が指定管理者を指定したら文化財に関する事項は指定管理の中に入れられない、これは教育委員会の権限を奪っている。
答 指定管理を認めるかどうかは条例によって定めることになっています(地方自治法第244条の2第3項)。条例を定めるのは議会の権限です。よって指定管理をどの程度認めるかを決めるのは議会の権限であり、教育委員会やその他執行機関の権限ではありません。今回のケースで言えば議会が条例で指定管理者を指定する権限を市長に与え、同時に市長が指定する権限を持つ以上自動的に文化財に関する事項は指定管理の中に含まないという議決をしたこととなります。このように議会が決定しており教育委員会の権限を奪うことにはなりません。

2.従って武雄市長が文化財の管理を指定管理者に行わるのは条例に基づかない。また地教行法に違反する。
 と説明してきたとおり本件条例は地教行法に違反しないことが明らかとなった。ここからが「深刻な食い違い」の正体だと考えるが、しかし市長の事務処理が違法かそうでないかは条例の違法適法とは別に検討しなければならない。条例がいくら違法性がなくても市長が何をやったかによって市長の処分事態の違法適法の問題が生じるわけだ。
 武雄市の場合図書館と歴史資料館は一体のものとして運営されており、両者の運営を分離することは難しく、片方の運営を市長が指定した管理者にさせる以上もう片方の運営だけを分離することはできないというのが本件条例に反対する方々の言い分である。「どうやって分離するのですか?」と。私はこう答える。「市長が考えることであって、われわれが考える必要はない。市長が指定した管理者が文化財に指一本でも触れたら即違法」市長もこう言うかもしれない。「両者の運営は一体だ、片方だけを分離できない。どうしたらいいのか」私はこう答える。「知りません、自分で考えてください、両者の運営を分離できないなら条例案を出して議会にお願いしたらどうですか、両者の運営を教育委員会に戻してください、と。」以上。それだけの簡単な話だ。
 昨日来の誤解は「条例が違法かどうか」と「武雄市長の事務処理が違法かどうか」というまったく異なる問題点をそれぞれ問うていて、そこが食い違いの原因になっていたと思われる。いかにご立派な条例を持っていても市長が違法な処理をすればそれは違法で、条例が滅茶苦茶でも事務処理が適法に行われていればそれは問題ないことになる。

付記 武雄市TSUTAYA図書館構想反対派への苦言
 昨日twitter上にて本件条例について大意次のようなやり取りをした。
私「根本的な疑問として、新条例15条が無限定に権限を与えた(これはあなたの解釈)のならなぜ図書防衛権だけ例外なのか聞いてみたい」
相手方(以下「相」)「それはわたしの解釈ではなく、sir43k さんが勝手にわたしの解釈ということにしたがっていること、私は指定管理者の指定と、必要な業務を認める権限を与えた、と言っている」
私「「必要な業務」に文化財保護を含むが図書防衛権を含まないのはどういうこと?何かどっかに書いてあるのか?」
相「文化財の保護に関することなので指定管理者制度の導入するにあたっては教育委員会が指定管理者を指定し、必要な業務を認めるとしなければならないと言っている」
私「それを言うためには件の条例が文化財保護も指定管理者に任せるという規定がないとダメ。地教行法による限定が利いているんだから文化財保護は含まない、法の規定如何にかかわらず無限定に必要と認める業務を定めることができるというのならそれこそ図書防衛権だって認められるという話」
相「「無限定」とか自分で言い出してそれにこだわっているから対話にならないことがどうしてわからないのか」
私「だって地教行法で定められた範囲は超えてるって言う以上もう無限定」
相「当方は首長に先ほど挙げた権限を与える根拠が地方教育行政法だと解釈している、何でもありにしたがっているのはあなた」
私「その地教行法は文化財に関する事項を首長に与えているのか」
相「これも繰り返し。文化財の保護に関することは首長の職務権限とすること自体を認めていない」
私「認められていない事項を条例が認めたとする根拠は?そして図書防衛権との線引きの根拠を」
相「地方教育行政法が根拠」
私「条例のどこに書いてあるんだと聞いているんだ」
相「第24条の2第1項。警告したにも関わらず無限ループを続けた。検索除外」
私「」
以上、#takeolaw 6/22-6/25 生ログより。相手方は@baked_pudding氏。
 …と、引用は長くなったがお分かりいただけたと思う。条例上の根拠を示せという話をしているのにいつまで経っても地教行法しか出してこず、繰り返し聞いたら無限ループ認定され相手にされなくなったのである。これに対するギャラリーの反応。
 このような反応をしてしまうこと自体に問題があるとは考えないのだろうか。まずもって本件条例が適法だからと武雄市長の構想を支持することにはならないということへの想像力が決定的に欠けているのが一点。二点目としてピンと外れのレスしかしてこないので何度も問いただす行為を問題視し、それにピント外れの回答しかしない人間を「懐の深い器量のある方」などと述べる日本語読解の基本的な誤りが存在するというのが二点目。さらにここにあげた中の誰一人として@baked_pudding氏に条例と法の取り違えを指摘する者がいない。このような対応では決して支持は得られないであろう。まずは@baked_pudding氏にその取り違えを納得させることから始めるべきである。猛省を促したい。
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テーマ:地方自治 - ジャンル:政治・経済

■コメント

■自掲示板に書いたことの繰り返しですが、こちらにも。 [春田の蛙]

他力本願堂本舗:たりき/だめにんげん@Vipper_The_NEET氏の主張する「競争入札方式を採用している指定管理者制度が存在する」というデマについても。
前提として私は、法律にも行政に関しても全く無知なド素人です。ですから指定管理者制度とか競争入札方式とか言われても正直さっぱりでした。

このように知識としては白紙の状態から15~20分程度ネットで検索するだけで、現在ワールドワイドウェブさんがツイートで指摘されてる内容↓にはたどり着けましたよ。

http://www.npo-ehime.net/npo-siteikanrisya.html
>管理委託は地方自治法第234条(契約の締結)に基づき、一般競争入札・指名競争入札等によって締結されていましたが、指定管理は、それ自体が委任という行政処分とになるため、入札等の手続きを経る必要はありません。PFI事業と同様にプロボーザル方式による公募・指名を行うことが原則となりました。

http://www.city.toyonaka.osaka.jp/top/__download__/16346/sin-siteikanri-dounyu-sisin.pdf
>外 部 委 託 や PFI において企画提案内容及びそれを実施できる専門能力等を重視した選定を行う場合、事業者等からの提案を広く募り、最も優れた提案を行った者を採用する選定方法を
>「公募型」の「プロポーザル」方式と表現する。契約形式としては地方自治法上の随意契約の形となるため、総合評価一般競争入札等の競争入札方式との対比で語られることが多い。
>指定管理者の指定については、行政処分の一つであり契約行為にあたらないため、本指針においてはこの方式に「準じた」手続きと表現する。

……本人が詭弁で誤謬を正しいと言い張るのみならず、周囲にも誰一人、間違いを間違いだと指摘したり諌める人間がいない。
間違いを指摘する人間が外部から現れたら異常に敵視し、見下し、煽ることにかけては賛同者がわっと集う。

こんなことで市長の市政を批判しても、広く支持者を集めるのは不可能でしょう。はたから見ていて呆れた連中だと思いました。猛省すべきです。

■ここに書いて伝わるかどうかは分かりませんが [春田の蛙]

一応、書肆(しょし)ふろすてぃ ‏@Alice_fst氏へ。

https://twitter.com/Alice_fst/status/217245101708152832

まずは、はじめまして。あなたが本心、失言を悔やんでいらっしゃると信じて、以下を記します。

どっと疲れをお感じなのだとしたら、それはワールドワイドウェブさんや資料屋さんを不当な思い込みから敵視していた誤りに気づくことによって、おかしな熱から覚めつつあるせいかもしれませんね。ある種の燃え尽きだと思います。

こういう時には、価値観や主張の再構築を急がないことです。あれこれ考えず、まずはゆっくり休んでみて下さい。

焦ると再び同じ過ちを、人によっては前以上の意固地さで繰り返すことにもなってしまいます。まずは現在の議論のすべてから、一度距離を置くことを勧めます。

自分の感覚を信じ過ぎないこと。少なくとも私は、一連の議論を見てあなたのようには感じませんでしたし、私自身まったくの素人ですが、上記にコメントした通り、
議論の要点に関する適切な解説にも容易にたどり着けました。専門的な知識などなくても、元々判断に困るほどの難しい話ではなかったのですよ。

ですから、あなたがなかなか論点を飲み込めなかった主たる要因は、実はあなた自身の側にあるのであって、ワールドワイドウェブさんや資料屋さんに大きな責任があるのではないと私は感じました。
お二人への謝罪に踏み切られたのは、大変立派なことです。過ちを取り返そうと焦らずに、ゆっくりと休養されることを勧めます。

横から不躾な提案で失礼いたしました。それでは、いずれどこかでまた。
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ブログ名変えた(2011.4.24)。落ち着かないなあ。

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